『現代のディスクロージャー ―市場と経営を革新する』中央経済社(2008)
柴 健次,須田一幸,薄井 彰 編著
第1部 ディスクロージャーの基礎理論
第2章契約の経済学とディスクロージャー 須田一幸
◎Ronald Coaseは,資源配分の調整システムとして「市場」の他に「組織」の役割が見逃せないことを指摘し,企業の存在理由を明らかにした。
ポイントは,市場取引を実行するには取引コスト(tansaction cost)が必要だ,ということにある。
取引コストとは,交渉する相手を捜し,取引の条件を伝え,いろいろな駆け引きを行い,契約を結び,契約が履行されたことを確認する費用の全体を指す(Coase(1998,p.115),邦訳131頁)。
場合によっては,市場を通じて取引するよりも,市場取引の一部を「組織」の内部に取り込んで実行するほうが,取引コストの削減に結びつく。
「組織」は,市場取引の取引コストがかさむとき,その費用を節約するため,市場取引の一部を組織内で実行する場として機能する。企業はそのために生まれる,という。(Coase(1988,p.7.邦訳9頁)(22-23)
◎株主は證券の分散投資によりリスクを分散できるが,経営者は報酬のリスクを(他の企業に勤務することなどにより)分散できないので,株主よりも一般にリスく回避的になる。それが,インセンティブ・システムのもとで別のモラルハザードを招くことがある(Milgrom and Roberts(1992))
インセンティブ・システムを設定する際,経営者と株主がどの程度リスクを分担するのか(リスク・シェアリング)が問題になる。効率的な報酬契約であるためには,「リスク負担のコストとインセンティブを与えることから生じる便益との間にちょうどバランスがとられている契約」(Milgrom and Roberts(1992),邦訳227頁)でなければならない。言い換えれば,リスク・シェアリングとインセンティブ提供がうまく調和した報酬契約が,経営者のモラルハザードを効率的に抑止するのである。(40)
第4章 企業価値評価とディスクロージャー 伊藤邦雄
◎ディスクロージャー観の変化
@もはやディスクロージャーは「義務」ではなく「戦略」(86)
Aディスクロージャーは企業に対する株主や投資家からの信頼を獲得するもっとも重要な手段となっている
Bディスクロージャーは経営(者)の姿勢そのものを反映した,経営そのもの
Cディスクロージャーにおける企業競争力は製品(サービス)市場での競争力とは異次元(87)
第5章 なぜ法はディスクロージャーを規制するのか 弥永真生
◎ディスクロージャーの必要性―株式会社の場合
株式会社は,株主の間接有限責任をその特徴とすると同時に
大規模な事業を営むのに適した企業形態であるといわれ,
また,経済社会において証券市場等を通じた資金調達が可能な企業形態である。
多種多数の利害関係者が株式会社を取り巻くことをもたらし,
他方では,会社債権者の利益を合理的に保護する方策の必要性を生じさせる。
@所有と経営の分離という現象を通じて会社の経営に直接関与しない株主が生まれてくるが,それらの者に,
A証券市場を通じた資金調達,会社の発行する株式や社債などの証券市場における流通がなされるようになると,将来の株主や会社の債権者に
B現在の会社債権者を保護するという観点から,資本制度のみでは不十分であり,会社の財政状態等に関する情報が会社債権者に
C会社が大規模になれば,社会に対する影響力が大きくなることから,国や地方公共団体,会社の取引相手,会社の製品・商品を購入する消費者,地域住民など
も会社の情報を必要とするに至る(90)
◎ディスクロージャー規制必要論
市場の失敗
市場原理に委ねておいたのでは,社会的に好ましくないという市場の失敗があるとすれば,ディスクロージャーを法規制の対象とする妥当性がある。
また,市場を通じて,効率的に資源が配分されるとしても,それは,最も公平な効率的資源配分が達成されるということを保証するものではない。(99)
第3部 ディスクロージャーの実務
第15章 企業のディスクロージャー戦略 星野優太
◎株主重視の開示からステークホルダー重視の開示へ
日本型コーポレートガバナンス=従業員を基軸とした「ステークホルダー」のシステムであるのに対し,
米国型コーポレートガバナンス=株主を中心とした「ストックホルダー(stockholder)」のシステム
↓
近年
米国企業=株主だけでなく,従業員を含めたステークホルダー全員の利益を追求する傾向にあり,
逆に日本企業がこれまであまり考慮しなかった株主を重視したさらに開放的な経営を行う傾向にあり,
両国のコーポレート・ガバナンスの性質はお互いに接近しつつある。(304)
Porter(1992)=米国企業のガバナンスシステムをドイツや日本のそれに類似したシステムに変化すべき。これまで米国企業は,株主の観点が強すぎたために短期的な利益を追求しすぎて,長期的な戦略である技術や顧客ニーズの変化に十分対応できなかった。そこで,近年の米国企業は,株主だけでなく,従業員等を含むもっと幅広いステークホルダーの利益を追求するものに変えていこうとする傾向にある。
ただし,経営者が株主の利益最大化を短期的に追求するか,それともステークホルダーの利益を配慮して長期的な利益最大化を図るかは,結局のところ株主の判断に委ねられているというのが通説。(盛田 章p.42 2004商法学の観点からみたCSR」『法律時報」第76巻第12号 pp.40-45) (305)
【文献取り寄せる】
第20章 株式市場とディスクロージャー 川北英隆
◎残余利益モデル
残余利益とは,会計的認識されていない「資本に対するコスト」を,当期に計上された(もしくは計上されると期待される)利益から控除したものである。この将来において企業が生み出す残余利益の現在価値の総額に,現時点において企業が保有している資産価値を加え,それを企業価値として認識する方法が残余利益モデルである。(412)
2008年12月31日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/111967412
この記事へのトラックバック
http://blog.seesaa.jp/tb/111967412
この記事へのトラックバック

